とある入所施設の、とある男性利用者さんの話である。
40歳代半ばでこの施設に入所され今日まで19年ほど過ごしてきた訳だが、ご本人、引越しを考えているという。自身の年齢が60歳代半ばになり、高齢者を特化して援助を実践している別の入所施設への移行を検討している最中だ。19年余り過ごしてきたこの施設にも強い愛着があり、他の利用者とも円滑な関係性を維持する温和な利用者であったが、先日、引越しを検討している高齢者施設へ職員と一緒に見学に行ったところで、どうやら心を大きく動かされた様子。(その施設には、診療室も歯科室も理髪室もあり、さらに自動販売機も多く設置されている等、彼にとっては安心感と魅力が沢山!?)そこから話はさらに進展し、お試しの体験入所の日程まで決定済みなのである。参考までに、現在彼が利用している入所施設の利用者の平均年齢は46歳くらい。知的障害の特性もあり加齢化が進んでいるものの、まだまだ若い利用者も多い。60歳代で入所利用しているのは彼だけである。
一般的に住まいを検討する時には、物件の住まい易さや、周囲の環境などを第一に考えるのが当然であろう。しかし、障害者支援施設(入所)に入居する際には、利用者の希望や意向はもとより、それぞれの事業所の役割や機能性によって利用者をマッチングさせる事が往々に起こるのである。彼自身、60歳代半ばに差し掛かるも、健脚とまでは言えないが支えなしの自力歩行が可能で、食事場面も見守りは必要だが自力摂取で食欲も旺盛であり、いわゆる元気である。しかし、現在利用している施設の機能性(総じてバリアフリー型ではなく、設立から30年以上経過)や、生活の安心・安全の担保・医療面等を考えると、彼がまだ元気なうちに機能が充実でハード面も整備された他施設へ移動した方が・・・と。実際に数年前からこのような内容で彼に対し、引っ越しを検討して頂けないかと、幾度も話をしてきた経緯もあったらしい。その時どきの彼は「まだ、65になったら。ここでいい。」と。
ここで忘れてはならないのが意思決定支援である。事件から3年。現在津久井やまゆり園が再生基本構想を軸に、主として住まいの場の意思決定支援が慎重に取り組まれているところだ。スケールとしては小さいが、この彼も今まさに住まいの場の意思決定支援が行われている。理解を得る為の情報提供手段の工夫、見学・体験利用を経たうえでの判断材料の蓄積など、本人本位の思いの中で最終的な意思決定になることが最善であろう。
上記に記したように時に施設職員は勝手で自己中心的であり、施設の事情や体制を都合よく解釈し『利用者のことを考えれば〇〇〇の方が良いに決まってる!』と、利用者の人生に安易に介入し、支援の美徳を得ようとするところがある。『わたしの気持ちや意思を確認していますか?』と、指摘を受けることがないように、今回の意思決定が住まいの場であることを、私たち職員は重んじ、慎重に、丁寧に、真摯に、最後まで対応しなければならない。
とある施設の話でした。
愛の森学園 職員・E
2019/06/28 17:00 | 職員のコラム