時は流れて、2045年度を迎えた愛の森である。どうも様子が違う。10階建てのビルに生まれ変わった愛の森は森の里の一角に凛とそびえたっていた。利用者は5階から10階に各自の経済力にあわせて居住スペースがあてがわれ、上階の9階、10階は豪華絢爛なハイグレードサービスのスペースとなっていた。1階、2階は通所利用者の活動スペース、3階に短期入所と統括マネジメントルーム、4階は入所利用者の活動スペースである。5階は各種の浴場がちりばめられ、複数の食堂を中心に癒しスペースとなっていた。定員は40名のままであったが、自由契約のお金持ち利用者(外国人も含む)は9階、10階に5名ずつ入居され、差別化されたハイクオリティの日常を楽しんでいた。1、2階の通所者は50名をはるかに超えていた。社福愛の森は消滅し、株式会社〇〇グループ愛の森に名称替えをしていた。利用者の多くは高齢となり、その多くが車椅子に乗りながら、各階のスペースで各自の時間を過ごしていた。森の里に咲き誇る色とりどりの紫陽花を階下に見つめながらのひと時である。
各階には、多国籍の支援者や各種のロボットが忙しなく動き回っていた。空中にはドローンが風を切って室内、室外を飛び回り、入居者の見守りや雑務をこなしている。意思決定の責任者と執行者はマネジメントに明け暮れ、その配下に支援全般、経営全般を司る少数の管理職、実務は人工知能に託されていた。支援、傾聴、介護は多国籍の人間たちが交替で携わり、利用者への食事、入浴、トイレ等の介助と雑務はロボット(アンドロイド)が担っていた。雲間の青空の中、ドローンが県庁へ書類を届けに出て行った。無人の送迎車が通所利用者の送りに待機を始めた。御承知の通りのシナリオで、ここで夢は醒めてしまい、2015年の愛の森に戻るわけだが・・・
最近のITの目覚ましい進化によって、世の中の変化はめまぐるしい。スマホの機能は日進月歩であり、リニアモーターカー、ドローン、ロボット、人工知能、遺伝子操作等の急速な革新を報道で知るにつけ、障害者福祉においても夢物語と思っていた構造改革が徐々に起こるということかも知れない。勿論費用対効果のリスクはあろうが、例えば、声帯を摘出した、つんく氏のハスギーボイスをもう一度聞ける日が不可能ではないように思う。言語明瞭意味不明瞭である利用者の発言を人工知能が通訳してくれるかも知れない。パワハラ、セクハラ等の労働問題も人工頭脳が調停してくれるかも知れない。但し、こうしたテクノロジーが軍事オタクの研究、つまり人殺しの武器開発から来ていることも忘れてはならない。逆もまた真なりである。平和目的で開発された技術が軍事に転用される場合も往々にして起こるということである。様変わり時代性からの障害者福祉への恩恵を願いつつ、はたしてテクノロジーの進化が本当に人類を幸せにするのか、否か・・・雲間の青空を仰ぎつつの思いである。