愛の森コラム
2017年02月01日(水)

甘辛の構造

 新年も2月を迎えた。「2」という数字は、指で表すとVサインである。良い事がたくさんあることを願わずにはいられない。しかしながら、感染症の侵入に怯える日々は継続する。満開の梅のたよりに元気をいただき。桜の開花に思いをはせる、危機管理優先が最大使命のひと月である。危機管理といえば、津久井やまゆり園の事件から、はや半年が過ぎ去った。

 「2」という数が入る四文字熟語に「二律背反」という語句がある。「相互に矛盾し対立する二つの命題が同じ権利をもって主張されること」という意味である。拡大解釈すれば、その落とし所は「甘辛の構造」かも知れない。「甘い」という味覚と同時に「辛い」という味覚も肯定される食感である。昨今の障害者福祉においても様々な場面で我が身で感じる「甘辛」問題がある。

 まずは危機管理にかかわる施設運営である。求められるのは、施設運営の安心と安全である。利用者の皆さんの「命と権利」、携わる職員の「命と権利」が何よりも優先される。防犯カメラ、防犯グッズ、防犯フィルム、防犯に係る専門機関との連携などなどの対策である。つまり、「施設自体を強靭化せよ」との薦めである。しかしながら、そう認識しつつ、「高い塀で囲む等の堅牢化はならない、地域との交流は継続せよ。地域移行は進めよ」と付帯注文が必ず入る。考えて見れば、利用者の皆さんの立場からすれば、ごもっともな注文であるのだが、安心と安全責任を問われる事業者側からすれば、「矛盾していない?」、いや「どうすればいいの?」と聞き返したくなる不安感に陥るのである。人命と人権の観点から考察すれば、「強靭化」と「堅牢化」は大違いなのである。

 付随して利用者の「命と権利」と職員の「命と権利」も甘辛の関係になり易いのが福祉現場の根深い問題である。日本国憲法に照らせば、「法の下の平等」であり、日本国籍を有する者は皆平等ということになる。しかしながら、福祉施設においては、「対等に関係」という契約上の暗黙の了解がありながらも「支援する側」の職員と「支援される側」の利用者の皆さんでは、リスクの度合いは異なるということになる。その差を職員側が埋めるということで、平時においては均衡が保たれているのだが、有事においては果たして機能するかどうか?・・・難しいと答えるのが正直かも知れない。利用者を放置して、職員だけが安全確保するとは口が裂けても言えない使命感の中での、平等であるべきはずの「命と人権」の甘辛が見え隠れする。

 「甘辛」に善悪の結論などは出来ないと思う。相反する構造が同居し、形式の上では共存しているかに見える虚像が福祉施設なのである。残念ながら「ホンネ」と「タテマエ」の使い分けを模索するしかない。但し、福祉に職を求めた以上、利用者側を慮りながら、自らの「命と人権」を守り、甘辛の構造の落とし所探しを忘れない意志と意地の継続が大切ということになろうか?

2017/02/01 09:00 | 施設長のコラム